AVIOTが目指す「日本の音」を音楽の作り手に伺う「ARTIST VOICE」。今回はマルチプレイヤーとして活動する、TENDREさんにインタビュー。楽曲制作の際のこだわりや、これからの活動について教えていただきました。
Profile
TENDRE(テンダー)ベースに加え、ギターや鍵盤、サックスなども演奏するマルチプレイヤー、河原太朗のソロ・プロジェクト。
リスニング用として気持ちいい。結構好きっす!これ!
AVIOT TE-D01t、TE-BD21j、TE-D01mの3製品を試聴していただきましたが、いかがでしたか?
TENDRE ) TE-D01tは、細かい環境音やハイハットの音とか、ハイに近い音を作り込んであって、単純に質感がいい。ローも重たく聴こえるのではなく、程よいアタック感があって、総合的に気持ちいいなという印象がありました。イヤホンって、ものによってはローがサブウーファー※のように響きすぎてしまうような、心臓が持ち上がるような音がするものもあるんですが、そういうのもなく、あくまでリスニング用としてすごく気持ちいい。ローの低域を失うのではなく拾いながらちゃんと歩調する部分をうまくまとめている印象がありますし、そのローがあるから上の部分がほどよく聴こえるというのもあって。
イコライジングするときの美味しい部分がちゃんと拾えているような、作り手として「気づかないかもしれないけど意外とこういう音いれているんだよね」という音作りのこだわりが反映させられているような気がしたんで、アレンジ面での聴かせたいものが一つずつ鮮明に聴こえているような音作りができていると思いました。ビートやドラムもクリアに聴こえてきますけど、あえていうなら上物のアレンジが聴こえてくる印象がありましたね。パンニングも「真ん中にはいないんだけど右側にこだわりのギターを入れました!」というような左右差、ステレオ感が捉えやすいような印象がありました。結構好きっす!これ! 1番自然にゆったり聴けるのはこれかなと思いました。
※低音域を増強するスピーカー
TE-BD21jはリッチな音作り
TE-BD21jは、TE-D01tと比べるとどちらかというとリッチな音作りという印象です。TE-D01tが作り手としてアレンジを伝えたいものだとしたら、TE-BD21jはエンジニアの妙が捉えやすい質感だった気がします。たとえば「低域」とひとくくりにしても、いろんな周波数があるし、キックの鳴らし方にも色々ある。そんな中でも「ここのサブベースもちゃんと鳴っているな」とか、それぞれのこだわり捉えやすかった感じがしました。でも低音が暑苦しいということはなく、あくまで鳴っているということが認識できる配置になっているような。ビート系の音楽を聴くならTE-BD21jがいいかなと思います。上の部分の抜けの良さもTE-D01t同様に残っているし、でもTE-D01tと比べると重心が少し下がっていて、腰が少し低いところに鳴っているものが聴こえてきます。
TE-D01mは、TE-D01t、TE-BD21j、双方の美味しいところをいいとこどりした感じ。歌を聴くならTE-D01mなのかなっていう印象でしたね。TE-D01tに比べるとミドルレンジの聴こえる部分だったり、膨らませ方のキャラクターが変わってくるんで。TE-D01tが少しハイが抜けてくるような印象だったとしたら、TE-D01mは歌が真ん中にいることが多いので、その歌がダイレクトに入ってきやすかったかな。ビートだったり、ハイ抜けのそれぞれの歩調も捉えているんですけれども、いわゆる「上もの楽器」と歌のバランス感や混ぜ方だったりとか、調和がとれている印象でした。
通常のリスナーとして聴く耳と、エンジニアとしての耳、作り手としての聴き方、それぞれ違うと思うけど、リスナー寄りで聴いてみようかなという心構えで聴いてみました。が、結局はそういいながら作り手の意識になっちゃう。ここはこう聴こえるんか!みたいな。でも、3製品とも聴かせたいレンジがそれぞれ違うという印象がありました。
普段からイヤホンをよく使われるとのことですが、選ぶときにこだわっているポイントなどありますか?
利便性を重視しています。ノイズキャンセリングの有無だったり操作のしやすさだったり、そこはある種リスナー脳です。卓上で作業するときの脳みそと普段帰り道で聴く脳みそは別物。レコーディングした帰りにイヤホンしながらミックスされたものフラットに聴いてみることも多いです。
イヤホンを選ぶ基準としては、なるべくフラットものがいいかなと思っています。アプリ上で音域を選んだりできるけど、「自分でイコライジングをしちゃったけど、この曲って結局どういう曲なんだっけ?」となることもなくはないんで、楽器選びも然り、実機が鳴らす音やキャラクターを大切にしていきたいと思うし、どういうモノを選ぶか?という感覚も大切にしていきたい。
曲作りは映像を作る感覚。主人公は誰か
イヤホンやスピーカーなど、様々な媒体を通して楽曲をリスナーさんに届けるにあたり、製作時に意識されていることはありますか?
歌」と「音」は、当然リンクはしているんですけど、重きをどこに置くか、ということを意識しています。「この音楽はどういう在り方がいいのか」というのを考えるときに、「主人公」を設ける。歌が主人公になることが多いんですけど、歌自体も歌なのか、説明なのか、語りなのかによって変わってくるんですよ。それも全面に歌が出ているからいいという訳ではなくて、引っ込んでいるからいい、ということもあって。個人的には映像を作るような感覚です。例えば1本の映画があるとして、歌という名の主人公がどれくらいの距離感で見ている人の近くにいるのか、逆に人物がいなくて景色だけで映画のなにかを物語ったりすることもあると思うんです。そこの塩梅を考えることが多いですね。
ただ、「僕が音楽家として作った思いはこういうもの」ってこだわりは当然音にしていくべきだと思いますけど、それを自分たちのエゴにしてはいけないと思っています。リスナーに捉え方を委ねる余地を残しておくというか。捉え方が違うというのは、作り手としても面白いことですし、今後の活動の糧にもなるので大事ですね。
「RAINBOW」は、いろんな[IMGINE]が広がる曲
9月29日に、メジャー1stアルバム「IMAGINE」をリリースされましたが、アルバム収録曲の中でとくにこだわった曲や、イヤホンで聴いてみて欲しい、という曲はありますか?
「胸騒ぎ」はナマ物の象徴としてのアコースティックギターがメインにありながら、対比を作るために、電子音楽の象徴としてのシンセベースをすごく低い帯域で入れて、ギャップを作っています。この曲に関しては歌詞を伝えることが優先だと思っているんで、それを伝える情景の作り方にはこだわりました。 「RAINBOW」は、TE-D01tでぜひ聴いて欲しいです。質感を捉えやすいイヤホンなので、聴き馴染みのよさもあるでしょうし、この音はなんの音だろうかとか。虹にとりまくものを想像できるのではないでしょうか。雨が降り終わった後の虹なのか、別のものなのか、人によっては雨の音に聴こえるかもしれないし、街の雑踏かもしれないし、いろんな[IMAGINE](=想像)が広がるのではないかと思います。
この曲は、フォーカスは歌に当たりつつ、細かい音をテクスチャとして入れています。この曲はそれこそ映像的に作った部分があって、ストーリーテラー的に歌が現れたときに、「背景」自体もこだわりを詰め込んでいて。シンセサイザーやギターのエフェクトの音にしても、うっすら聴こえるんだけど、聴感上「これなんの音だ?」というのも多くしたりすることで、イメージできる「余白」のようなものを作れるかなと思って作りました。
「IMAGINE」は今の自分に実直なアルバム
いままでは歌詞を書くのは得意ではなく、どちらかというといかにかっこいい音像をつくるか、にこだわっていたんです。だからこそ「マルチプレイヤー」という枕詞をつけていただいたんですが、去年(2020年)頃から変化が起きて、歌を作りたいという思いが強くなってきまして。去年の12月くらいからアルバムの構想に入ったんでけど、昨今の状況下で外的刺激も少ない中、己や世の中に対して向き合ってきたものや、リアルタイムで感じるものを音楽に落とし込むことが自分の軸になってきた部分があったので、今の自分にすごく実直なアルバムができたと思います。アルバムのタイトルも最初からつけていた訳ではなくて、楽曲が揃って結果的に「IMAGINE」という言葉が出てきました。
最後に、これからの展望を教えてください。
今年メジャーという舞台に初めて立って、どんなところなんだろうと考えた時に、老若男女が楽しめるのがメジャーなんじゃないかなと。ターゲットを絞るのではなく全員が楽しめるものを作りたいなと思って。曲によってこういう人に伝えたいというフォーカスする対象が変わってくることもあるかもしれないですけど、スタンスとして誰でも楽しめるようなビートミュージックだったり、歌ものだったりを作っていきたいです。自分のジャンルを設けている訳ではないので、引き続き自分が思う「TENDREらしい曲」は作り続けていくだろうけど。
より広げる意味で言うと、もう少しおっちゃんになったら音楽番組を作りたい、つまり“場所”を作りたいなと思っています。新しいクリエイティブを年下のクリエイターと楽しめる空間を作ったり、年下だけでなくて年上の方でも自分の感覚と合えば、対等に話しながら時代にあった面白いものが作れるかなって。色んなもの・人を繋ぐ場所や役割になりたいです。
あとは美味しいご飯が食べれればいいかなって思います。(笑)
美味しいご飯を自分1人で、ではなくて、自分が素敵だなと思う人たちや仲間たちと食べる。いい食卓を囲みたいですね。